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火の手が上がった。
燃え上がる赤い火。夜の闇が一瞬にしてオレンジ色の幕を帯び、左の丘の稜線がはっきりと見えた。
その稜線の上に突きだした榴弾砲の砲身の影が角度を下に変え始め、その様子から判断すると敵が迫っている事は明白だった。
砲を隠している窪地からでは詳しく様子がよく分からない。
私がいかなくちゃ。
「状況報告!」
そう思っていると、無線越しに中隊長の叫び声が響く。
榴弾砲の砲身が丘の下に見えなくなると、誰かが稜線の上に姿を現し、丘の上の方へと走ってゆく。
そのまま重機関銃を設置した場所へ潜り込む。それから数秒もしない内に重機関銃が燃えかがる炎に向かって重機関銃が発射された。
奴らが直ぐ側にまで来ている。
訓練通りなら、小隊も陣地を移動しなければならない。
私は私の小隊の榴弾砲に駆け寄り、後ろへと回る。弾薬の装填手と視線を合わせると、すぐさま横に取り付けられているスイッチを押し砲身を下げた。
「弾薬車大破」
攻撃を受けている1小隊の通信手が酷く焦った声で言う。
続け様に「数名が負傷! 敵、数不明」
それ効いた小隊の隊員達は一斉にエンジンを掛けた。
みんな離脱の命令が出るのは分かりきっている。
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