† 一 †

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女は、手厚く保護されて、湯や水などを与えられた。 その場が落ち着くと、やがて奥女中たちを束ねる御年寄(奥向きの最高責任者)が、女に欠け落ちの理由を問いただした。 はじめは嫌がる様子で、女は、頑なに口を閉ざしていたが、親身になって御年寄が問いかけているうちに、ようやく重い口を開いた。 「わたくしめは、佳きすがありまして、宜しきところへ縁につき、今は夫を持つ身でございます」 驚いた御年寄が、 「いったい何処へ嫁いだのだえ?」 と、尋ねるが、女はなかなかこたえない。 ここで強く詰問しても、女は固く口を閉ざすだけにちがいない…… と、感じた御年寄は、やさしく話を聞く態度を崩さず、根気よく説得するうちに、ようやく女の口が弛んだ。
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