† 一 †

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横からすうっと、白い手が現れた。 その手の主は、手にした白い貝殻に水を注ぐと、呆気にとられた奥女中に向かって、にこやかに会釈する。 それは、二十日前に姿を消した女だった。 奥女中は「ひいっ!」と、悲鳴をあげると、その場で気を失った。 奥女中の悲鳴を聞きつけた数人の女たちが、長屋からあわてて駆けつけると、ちょうど怪しい女が、屋敷の縁の下に潜りこむところであった。 さて、屋敷の中は大騒ぎである。 おっつけ男たちも駆けつける。 やがて、尻を端折り(はしょり)、襷掛けをした、たくましい中間(ちゅうげん・雑用係のような雇われ者)たちが、頬っ被りの手拭い姿で、縁の下に潜りこんだ。 男たちが、蜘蛛の巣まみれになりながら、潜りこんだ女を捕らえてみると…… はたして、行方知れずになった女にまちがいがなかった。
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