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腕を引かれながら建物の間をひたすら走っていた。
限界に近いサクヤは足を縺れさせ、前のめりになる。
それを支える様に腕が身体を抱き上げ、脇に抱えられた。
軽々と走る銀髪の青年に謝るも返答は無い。
サクヤは片手で箱と小さなパンダを抱きしめて後ろを見る。
無数の蛙人間が追いかけて来るのが見え、自分を置いて逃げる様に言うが無視をされた。
人々の悲鳴が聞こえ、青ざめていると青年は言う。
「今は、逃げ切る事だけを考えてろ」
その言葉に頷くと、青年がしっかりとサクヤを抱えて角を曲がる。
行き止まりを示す壁にサクヤは焦りを覚えたが、気にする素振りを見せずに壁を蹴ると軽やかに壁を登り切った。
人間離れした行動に驚くサクヤ。
だが、蛙人間は建物の上にも存在していて逃げ切る事が出来ない。
二人を見つけた蛙人間達が一斉に口から酸を含んだ唾液を飛ばす。
青年がしまったという顔をした瞬間、大谷吉継の家紋が唾液を弾いた。
何処から現れたのかと驚く青年だったが、すぐに正体が分かる。
細い腕が横から伸ばされていたのだ。
切羽詰まった表情で腕を伸ばしているサクヤは、ホッと息を吐く。
「サクヤ、その技にも限界があるのを忘れるな」
大谷の声がサクヤを叱る。
青年が青ざめながらパンダを見た。
ぬいぐるみだと思っていた物が腕を組んで人の言葉を発している。
混乱する青年にサクヤは小さく笑う。
摩訶不思議な出来事に声を失っていると蛙人間が下から現れ、酸の唾液を二人の足元に吐き出す。
みるみる内に解ける足場から離れ、逃げるべく走り出した。
どうしてこんな事になっているのか。
全ては、数時間前に遡る。
■□■□■□■
鏡の中は水中の様になっていて流れに身を任せていると、風が全身を撫でた。
ゆっくり目を開き見た事の無い光景に胸が高鳴る。
路地に並ぶトタン屋根の店や木の家は存在せず、似たような四角い柱が沢山並んでいる景色に感嘆の息を漏らす。
色んな服装の人々が歩く道は、土では無く固い石で造られて三色の丸い何かが光ったり点滅していたりして面白い。
緑色のライトが光るとカラフルな箱が動き出す様子に興味を示すサクヤに大谷が話しかける。
「遊びに来た訳ではない事を忘れるな」
大谷が一緒に来てくれたのだと嬉しくなり姿を探すも、見当たらない。
声はしたはずなのにと探して、気が付いた。
腕に箱以外の感触がある事に。
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