在る日の日常

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「僕の父さんは別荘とか持たない人だったからな。カトレア(母)さんに聞いてみるけど期待はしないでね」 父さんは世界最大の財閥の当主にまで上り詰めたが性格は節約主義者だった。実家も豪邸だがそれも少しくらい見栄を張れと従兄弟(僕の叔父さん達)に言われ買ったものだ。僕の生まれる前の話でれんとさんから聞いたものだけど。 「イギリスは今は朝かな。カトレアさんなら起きているだろう」 スマホを取り出して電話をかける。カトレアさんは僕の父さんの後妻で僕とは血の繋がりは無い。それでもクズな僕に愛情を注いでくれた大切な家族だ。だけどカトレアさんはまだ若いし母さんと呼ぶのが抵抗がある。因みに日本人とイギリスのハーフで実家はイギリスで今は実家にいる。父さんと離婚して実家に戻ったとかでは無い、それはおいおいまた。 「もしもし三味君? あなたから電話してくるなんて珍しい、元気にしてた?」 「はい。カトレアさんもお元気そうで何よりです」 思わず笑みがこぼれる。ホームシックとかでは無いけどやっぱりカトレアさんの声を聴くと心が和む。包容力があるのだろう。 「もう少し早く電話してくれたら由羽(ゆは)と空(そら)もいたのに。今学校に出たところだったのよ」 由羽と空、僕の弟と妹。僕の生みの親は美麻(みま)と言う名で本当の母さんだ。母さんは僕が幼い時に帰らぬ人となりカトレアさんと再婚した。その間に生まれたのが由羽と空で因みに双子。なお、いろはも僕の妹だが彼女は僕の姉さんの娘。だから正確に言えば僕といろはの関係は叔父と姪となる。双子の二人はいろはの存在を知らない。ってか僕に姉がいることも知らないのだ。それは諸事情あって僕とカトレアさんが伝えていないから。あと僕らの父さんも去年他界している。僕は今の学校に残ってカトレアさんと由羽と空は整理とか決意とかで今年の一年カトレアさんの実家のあるイギリスに戻っている。 「二人は元気ですか?」 「そう思う?」 電話先のカトレアさんが苦笑いしているのが容易に察せる。 「空はお兄ちゃんっ子だったから、元気そうにしてはいるけど時々辛そうな顔をしてるわよ」 「すいません」 空はいろはと違い純粋無垢で天真爛漫、故に傷つきやすい。イギリスへの留学は彼女自身が決めた事だがその理由は簡単に想像できる。故にカトレアさんの言葉が胸に突き刺さって辛い。
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