在る日の日常

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「三味が多才だってこと。お前は自分の事を過小評価するクセがある。財閥抜きにしても三味には人望と人脈がある。それにお金もあるし……それなのにやりたい事は無いのかよ」 「やりたい事、か」 結月や堺兄妹、ゆんとは少し離れた場所に座る。こんな話を京助とする日が来るなんて思ってもいなかったな。 「悪い気分じゃないな。いや、むしろ気分がいい、かな?」 「ん?」 「僕はね、卒業したら世界を巡ろうと思っているんだよ、京助」 「旅行か?」 「最初はそうかな。昔さ、小学生の頃の話になるんだけど姉さんに連れられて日本のいろんな所を巡ったんだよ。その時の事は今でも鮮明に覚えているよ」 「三味の姉さんっていろはの母親の園山亜美さんだっけ?」 「うん。いろはに似て傍若無人だった。クールでストイックで誇り高くて」 誰よりも弟に甘くて優しくて尊敬できる人。僕の大切な姉さん。 「そんな姉さんは幼い僕に知らない世界を見せてくれた。そして思ったんだ、もっと大きい世界が見たいって」 情報世界の今、家にいても世界の情報、情勢を知ることが出来る。でもそれが全てでは無い、ほんの一部だって。姉さんはそれを僕に教えてくれた。 「まだ曖昧な事しか言えないけどいつかはさ、ジャーナリストとかカメラマンとして世界を回りたいかな」 「それはあれか? この世界で起きている事を世界に知らせたい的な?」 「そんなたいそれたものじゃ無いよ、本当に世界を見て回りたい」 好奇心は人を成長させる。そして僕はもっと人として生きたい、成長したい。 「答えになって無いかもしれない、でもそれがやりたい事。こんな僕でもやりたいと思えたんだ、楽しいに決まっている」 「らしい答えだとは思うぞ。そうか、それが三味のやりたい事か。面白そうだけどやっぱ一人旅がしたいんだろうな」 「そうだな……本当はあいつと行きたかったけど、今は一人がいいかな」 京助は僕に人望や人脈があるって言うけど今でも僕はどうしようもなく孤独だ。みんなで晩御飯を食べている今だってどこかつまらなさを感じている。 「そっか。今はそれでいいと思う。でもいつかお前の本当にしたい事は出来る日が来るって。彼女は忘れていないさ」 京助……、 「そうだね、ありがとう」
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