在る日の日常

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「あの人は型にはまる人じゃなくて現場でこそイキイキするひとだったから。超が付くほど優秀な人だったし謎の権力があったし、そのせいで逆に上層部には怯えられていたけどね、フフ」 橘さんが主任と言われる人物をとても好きなのは分かる、でもそんなに楽しそうに話さなくても。そう言うところが子供っぽいって言われるんだよな、橘さんは。いい人なんだけどさ。因みに何故か橘さんは僕に主任がどのような人なのかは教えてくれない。話したくないのなら聴かないけどさ。 「ところで三味君、後ろに乗っている女の子は友達?」 いきなり話のベクトルが変わった。 「はい、学校の友達でマンションも同じ階に住んでいます」 「確か京助君やゆんちゃん、それに西野園ちゃんも一緒に住んでるんだよね? じゃあ後ろの子も仲が良いんだ。三味君あいかわらずモテるねっ!」 「止めてください。そんなんじゃないですよ、ただの腐れ縁です」 「そうなんだ。ねえ君、名前は?」 「……佐倉結月です」 その自己紹介は車のエンジンの音にかき消されかけていた。顔も下を向いているし、 理由は単純明快、結月は実は1度(正確には2回)橘さんと会っている。その時の結月は少し警察にバレてはいけないようなことをしていたからだ。結月が顔を隠すのに必死なように僕は笑いを隠すのに必死だった、こんな結月は滅多に見れないから。 「佐倉結月……ああ、元魔狼の代表取締役牽、参謀の」 バレてるし、あんなに頑張ってあの結月が存在感を消していたのにバレてるし。 「いえ、あの、その……」 冷や汗だらだらでこちらを見つめる結月。たぶんこれは大丈夫、任せて、の顔だ。 「そんなに心配しなくても橘さんは結月を逮捕したりはしないよ」 結月が所属していた組織は確かに警察と敵対関係にあったけど結月自体は警察にお世話になるような事はしていない、たぶん。 「本当に?」 その言葉に橘さんは苦笑いし、 「警察が魔狼と対立していたのも昔の話だし行ってしまえば警察だった霧島さんも元々は魔狼の出だし」 橘さんはの苦笑いは哀愁へと変わっていた、きっと昔の事を思い出しているのだろう。橘さんが心から尊敬していた霧島さんと言う警察は魔狼との抗争の中で命を落とした。だから橘さんからすれば魔狼と言う組織は何よりも恨む対象なのだ。
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