在る日の日常

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僕達を乗せたパトカーは無事にマンションの前に着いた。挨拶を終えてパトカーを降りてドアを閉めようとしたとき、 「本当はね佐倉ちゃん、さっき最初に見たときから君の正体は解ってたの。貴方は私達警察を見たとたんに顔を隠すからさ、少しだけ話したくなって。若いのにそんなに怯えていたら可能性を潰しちゃうよ。それだけ伝えたかったの」 運転席に座る橘さんは優しく微笑んでいた。そしてその言葉を聞いた結月も自然と明るくなって、 「ありがとうございます橘さん。とても励みになりました」 「そう、それなら良かった。あ、良かったら今度一緒にご飯でも食べに行かない?」 「その時は是非誘ってください」 連絡先を交換する2人。結月は明るくて持ち前の可愛さと性格から誰とでもすぐ打ち解けるけどここに来るまではまともに学校に通っていなくて更に世界を転々としていたから友達と言える人は限りなくゼロに近い。橘さんのように明るくて年の近い同性、しかも将来有望の警察官と友達になるのは結月の将来的にもかなりアドバンテージになる。さっきの橘さんの言葉の意はこう言うことだろうか。 「じゃあ時間がある日を送ってね。私もそれに出来るだけ会わせるから」 「分かりました。橘さん、」 「ん?」 「今日は本当にありがとうございました」 初めてみる結月の深々としたお辞儀、ゆっくりと頭を上げた彼女は、 「ずいぶんと心の重荷みたいなものが落ちました」 「それなら良かった。じゃあまたねっ」 「はい、お休みなさい」 「三味君も」 「お休みなさい」 「うん、お休みなさい」 心の底から心が温まったような嬉しそうな顔をする結月を横目で見ると話しかかるのが少し申し訳なくなり無言でマンションのエレベーターに入る。それからどれくらいの無言が続いただろう、その無言を崩して話しかけてきたのは結月だった。 「ねえ三味さん」 「なに?」 「今日は本当に良い一日でした」 「そう……」 でも結月、どれは少し違うんだよ。ほっこりな笑顔の彼女を見て僕は心の中でそう思う。 「明日もこんな日常が続くんだよきっと。だから結月、今日は本当に一日だったじゃ無くて今日も本当に良い一日だった、になるんだよこれからは」 「……そうですね、それはとっても素敵な話です、流石は三味さん」
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