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「流石にアルバイトとテスト勉強の両立はきついね、今日はこの後用は無いから下校時間までここで寝ていようと思ってさ」
アルバイト、そう言えば初めて七衣と出会った時は彼は早朝に新聞配達の仕事をしていたな。
「大丈夫? 流石にテスト期間ぐらいは新聞配達休めばいいのに」
「……因みにそれに加えて夜はホテルのウェイターの仕事もしていたから。いやあ、キツイね」
息苦しそうに話す七衣、これは本当に大丈夫か?
「七衣、ちょっと熱測ってみて」
僕は黒カバンから体温計を取り出した。
「如月君はカバンに体温計を常備しているんだ」
「妹が僕はいろいろ無茶するから持ち歩けってカバンに入れとけって押し込んだんだよ。ほら測って」
ここでの妹とはいろはでは無くイギリス留学中の如月空の事だ。今頃は何をしているのか……
「ありがとう、少し借りるね」
だるそうに腋に体温計を挟む。そして暫く無言で時間が経つのを待つ。
ピピピピピ……
電子音が鳴ると七衣がゆっくりと体温計を取り出して自分は見ないで僕の方にそっと差し出した。どれどれ……よし、
「七衣、病院に行くぞ」
「………………」
無言で突っ伏したままの七衣、僕が右手に持つ体温計のデジタル版には39.4と表記されている。僕は面倒事は嫌いだけどこれは放っておいていい範疇を超えている。放っておいて意識が飛んだりしたらマズイしよく見たら物凄い汗を掻いている。保健室も考えたけどこれだとどっちみち救急車コースだ。
「七衣」
「……金使いたくない」
お金使いたくないって、
「それで資本となる体壊したら意味無いだろ」
とは言ってもこのテストの時間に救急車を呼ぶのも気が引ける、七衣の体調と天秤に掛けるわけじゃ無いけど。あ、そうだ。
「ちょっと待っててね七衣」
僕はおもむろにスマホを取り出して、
『……三味か、どうした?』
「お忙しいところすいません、今時間ありますか?」
『ああ、ちょうど現場研修が終わって今大学の近くまで戻って来ているところだ』
それはちょうど良いタイミングだ。
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