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「おい三味」
「なんでしょう?」
「後ろで寝ている少年の事だが何故ここまで酷くなるまで病院に行かなかったんだ?」
「バイトが忙しいとかお金を使いたくないと言っていましたけど」
「……ふん、それで体を壊したら元も子も無いだろうが」
低い声で苛立っているのが良く分る。月乃さんがこういう反応を取るときは、
「もしかして七衣、重い病気ですか?」
僕は振り返ると苦しそうに蹲る七衣、素人目でも分る、ただの風邪ではないと。
「病院でしっかり検査をしないと断言は無理だが風邪とかインフルエンザの部類じゃ無い。蹲っているから恐らく腹痛、それに症状が強すぎる、たぶん肝炎だ」
赤信号で車を止めると月乃さんは胸ポケットからスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「紫観か、俺だ。病院の裏口にストレッチャー、それに個室を1つ確保していてくれ。ああ、そうだ。頼んだ」
電話を終わられるタイミングで青信号に変わり再び車は動き出す。
「肝炎って詳しく知りませんがどんな病気ですか?」
「肝炎にもいろいろある、何とも言えないよ」
「そうですか」
その後はシバシの沈黙だったが向かう先は東風大学附属病院だけあってすぐに着いた。入り口には紫観色縁(ゆかりみしょくえん)さんとナースが一人、それにストレッチャーが用意されていた。
「三味、この少年をそこのストレッチャーに運ぶ、足の方を持て」
「月乃さん、頭は私が持ちますから」
病院の医院長の娘に力仕事をさせない様に色縁さんが車に近づくが、
「こっちは大丈夫だ、それより中に戻って血液検査の準備をしろ。早くっ!」
「分かりましたっ」
中に走っていく色縁さんを確認したら、
「いくぞ三味、せーのっ!」
車から一気にストレッチャーに運ぶとすぐにナースと月乃さんが血液検査の為に中に運んで行く。僕が付いて行っていいのか迷ったが付いて行くことにした。しかし、
「三味、こっちは忙しいからあんまり周りでうろうろするな。あとで説明するからちょっとそこらへんで待ってな」
「……分かりました」
ここでは僕は無力、素直に専門家の指示を仰ぐことにした。
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