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クラッチを少しずつ離しながらアクセルを踏み込んでいく、ギリギリで繋がないと……
ブオォォォーーーン……
「兄さん五月蝿いです、不快な音が耳に響きます」
「……やっぱり軽自動車に乗り換えない?」
地球にやさしい低排出車で。
「お断りです、面倒ですから」
うん、知ってた。むしろ期待してた。
少し大きな音を立てつつもゆっくりと前進する、入り口のシャッターに近づくと自動で開く。このビルの前は交通量多いからなぁ……エンストしても落ち着いて対処しないと。
ブオン……ブオン……
「…………」
「兄さん、音の割に先に進んでいませんわよ。あと左手と左足が震えていまして?」
まさかいきなり難関の地下ガレージからの地上への坂道発進があるなんて……、もうヤだ。
「ちょっと集中しているんだから静かにしてよ、正直今までの人生の中でベスト10に入るくらいプレッシャー感じてるから」
「……さぞかし小さい人生を送って来たのですね兄さん。まあ、エンストされても恥ずかしいだけですし……それにそれ以上の問題も起こってますしね」
「それ以上の問題?」
なんとか道路に出る事が出来て余裕が出てきたと思ったら今度はいろはの含みのある発言、一体なんなんだ。
「1つ質問よろしくて?」
「なに?」
赤信号で止まるといりはの方を向こうとした。すると、
「こっちを見ないでください。と、言いますか後ろを見ないで答えてください。なにか人に恨まれることをしまして?」
人に恨まれること……、
「どうしよう、心当たりがありすぎて絞れないや」
「……結構な回答でして。流石はわたくしの兄さん、これは褒め言葉でしてよ?」
「それでその恨みがいったいどうしたの?」
「……さっきからこの車、と言うより兄さんをずっと睨むように見ている女性の方がいましてよ? それに少なからず殺気も感じます」
殺気か。本当に心当たりがありすぎて見事に的を絞れない。
「どんな女性か見る事が出来る?」
「サイドミラーからはっきりではありませんが見えます、身長は小柄で中学生か高校生ぐらい、特徴と言えば綺麗な空色のウェーブがかった髪ですわね。あの髪の色、何処かで……」
小柄で空色の髪の女性?
「ごめん、全然覚えがないわ」
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