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信号が青になり車をゆっくりと動かす。すぐに左に曲がったが、
「角を曲がって見えなくなるまで睨んでましたわよ、一体何をしたのやら……」
「本当に身に覚えが無いんだよね、いろはを見てたと言う可能性は? 相手が中学生くらいならいろはの方が可能性あるんじゃないかな?」
「最初はそれも視野に入れて考えましたが、どうも兄さんを見ていましたから。それにわたすしは外で恨まれるような事は致しませんから」
外では鉄仮面ですもんね、いろはさん。
「自分の記憶力に自身がある方じゃないけど本当に記憶にないからさ」
「でもあの殺気はどうも本物でしたわよ?」
殺気、殺気……
「そう言えば昨日、友達のお見舞いの帰りに嫌な殺気を感じたな」
その言葉にいろははほとほと呆れたように、
「そう言うことをさらっと忘れるのが兄さんの駄目なところ、今に足元すくわれますわよ?」
不適な笑いをうかべるいろはを横目に思う事はいろいろある。でも興味の無いものに惹かれないのは仕方ないし僕が記憶力が無いのも事実。正直、危機感を全く感じてない。
「でもわたくし、兄さんの心配なんて全くしていませんから」
けだるそうに肘を窓際に置くいろはを僕は横目で見る。その視線に気づいたのかジト目で僕を見てくる。
「ちゃんと前を見て運転してくださいなペーパードライバーさん。コホン……、兄さんは危ない橋を渡るのが趣味ですからね、面白い趣味をお持ちで」
「そんな趣味知らない、雑だよいろは」
「でも間違ってまして? 無謀とまでは言いませんが無茶ですわ。そしてわたくしは他人が……たとえそれが兄さんだとしてもどのような趣味を持っていようが軽蔑したりはしませんから」
「だからそんな趣味知らないから」
そして軽蔑こそしてはいないが馬鹿にはしている。この奇策士いつか自分の発言で溺れるだろうな。その時が少しながら楽しみだ。
「それにわたくしじゃ無くても兄さんを心配している人はそれなりにいるのじゃ無くて? 貴方はこれまで1人で生きて来たわけじゃ無いでしょうに」
「……そうかもね」
いろはの発言は正しいだろうし妙に説得力がある。でも今の僕が思う事は、
「ありがとう、いろは」
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