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「兄さんも知っているよね、私が臭いぐらいにテンプレなお嬢様言葉を使っている理由。ええ、私も恥ずかしくてそれこそテンプレなお嬢様学校じゃないとやろうなんて思わないけどさ。それでもお嬢様言葉なんて使ってたのは私ぐらいだったけどさー。私は兄さんが言うところの猫を『着る』んじゃない、大人を欺く為の演偽だよ」
食べ終わった皿を腕で横にどけて机に大きく被さって身を乗り出し、ニヤッと楽しそうに笑って、
「兄さんに会うまで孤児院でも学校でもずっとこの『キャラ』を演じて来たんだ、あの日まで。じゃあ本当の私はどっちなんだろうね兄さん?」
「どっち?」
そんなの即答で自信を持って答えることが出来る、簡単な問だ。
「今のいろはが素だよ」
「何故?」
「いろはが楽しそうだから」
そんな僕の真顔な回答を聞いたいろははまた笑い出して、
「クサいよ兄さん。それを真顔で言えるのは兄さんだけだよ、オメデトー」
「なにそれ、頭がおめでたいとでも言いたいの?」
「うん、文字通り褒め言葉。本当に兄さんらしい、私の期待通りの言葉ね」
「それってもしかして誘導尋問みたいな?」
「うんそうだね。それも含めて兄さんだし」
分りやすい人と言って笑う彼女、本当に微笑ましい。
「話がそれたね兄さん。高校に入ってからも猫を『被る』かの話だね?」
「『着る』ね」
「似たようなもの」
全然違うから。
「兄さんはこう言いたいの? 兄さんと出会ってそれで中学を卒業して高校に入学するときに私の『猫』は必要は無いって?」
いろはの目に力がこもる。理由はなんとなく解るけどぞれを言葉にするのはとても難しい。そんな感じの理屈じゃなくてもっと別のなにか。ここは濁すんじゃなくてはっきり言うのがいろはの求めている返答なんだと思う。
「はっきり言ってそういう事。お嬢様言葉を使ういろはが嫌いとかそういう事じゃ無くてさ、純粋に気になったんだよ。本当にただの好奇心。でもそれが僕の知りたい事」
「好奇心……それを捨てたら人間の成長は止まるとかどこかで聞いた事あるけどああ、本当に厄介だね。うん、勘違いしないで、解ってる、兄さんが面倒なのは今に始まったことじゃないから」
真っ黒だねいろは。
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