大家族

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「三味君には必要ないかも知れませんがこれも一つの知識として知っておけば損は無いでしょう」 僕の前のデスクに置かれている一冊の本。ハードカバーで分厚い辞書のようになっているそれを開いてパラパラと見つめる。 「でもこういうのが大事になってくるんじゃないのかな、礼儀ぐらいは知らないと人の上に行くとなると」 「でも三味君のお父さんの立夏さんはほとんど何もない所から独学で財閥を作りました。ならそのやり方を学んだ方が為になりますが……」 「僕の父さんはもういないしね」 「すいません三味さん」 悪かったと言わんばかりに頭を下げる青髪の青年、謝る時の笑顔も爽やかだ。 「別に大丈夫だよ」 「恐縮です」 時刻は現在一時を回ったあたり、僕は僕達の住居フロアから降りて企業テナントの入るフロアの一つ、18階に来ていた。ここは如月財閥の柱の一つの如月不動産の社長室。つまりはテーブルを挟んで目の前に座っている人物はその社長な訳で、 「おや、私の顔に何かついていますか?」 「いや、なんでもないよ」 社長と言うには若すぎる風貌、爽やかで格好よくて180を越える長身なのに体重は60台とかなり細身の人物でそれに似合うお洒落なスーツを着こなしている。 天明(てんみょう)れんと。 如月の分家の後取りで僕の従兄弟にあたる。歳は24歳でカリスマと才能で若社長として経営をこなす天才。余談だが僕に従兄弟は6人(男2女4)いてれんとさんはその中で最年長に当たる。分家は三つあり、僕を含めればそれぞれの代表が 如月三味(財閥) 天明れんと(不動産) 風舞月乃(病院) 山吹夏織(自動車) となっている。まあ下の二人はまだ正式に会社を継いだわけではないが兎に角この三つが財閥の柱として規模の大きい事業となる。 後、僕含めこの四人は従兄弟なのだからため口で話そうと決めたのだが天明れんとさんはかなり丁寧で紳士な人なので年長なのに一人だけ敬語を使っている。柔らかい物腰と人を安心させる話し方、そして会社を動かすだけの実力と包容力が不動産会社を先代よりも大きくしている。この建物も如月財閥、如月不動産の所有物。つまりはれんとさんの物なのだ。
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