新たな1年

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「知り合いのお店でのバイトって、それって思い出になる?」 楽しそうに話しているところに釘を刺す様で悪いがアルバイトの思い出ってそのバイト先に集まった同年代の仲間と一緒に働くから楽しい思い出が出来るんじゃないの?知り合いのお店ってどっちかと言うとお手伝い的な感じなのでは。 「あんまり大きな店じゃなくてこじんまりと営業しているお店なんだけどねー、常連さんと毎日楽しくお喋りとかして働けたら楽しいかなーって」 「あー、そっちね」 珍しく結月が大人びて見えた。彼女は僕なんかと違い社交性は抜群だ、しつこいようだがルックスも良いから天職だろう。 「結月にはぴったしなバイトなんじゃない、それ?」 「やっぱり三味さんもそう思う?そうだ、良かったら今度皆で遊びに来てよ」 思い付いたと言わんばかりにパシッと両手を合わす結月。まだ働いてもいないのにすっかり我が物顔だなおい……。 「分かったよ。それでそのカフェ、なんて名前?」 「えっとね、ブラッディフェンリルってお店」 血塗れ魔狼……随分な名前だがバーとしては兎も角カフェとしてはありなのか? ってちょっと待て、その名前嫌な予感しかしないんだが。 「おいまさか……」 心に引っ掛かった疑問を解くために確認をとろうとした途端、耳元に結月の吐息が当たり小さく呟いた。 「ゴニョゴニョ……クス」 伝える事を全て伝えて僕の耳元から離れる結月の唇。それを聞いた僕は肩を落として溜め息を吐いた。 「どう三味さん?」 「……そのバイトで思い出は出来るの?」 結月が話したことを簡単に纏めるなら結月が働こうとしているバーの店長は僕と結月、更には京助やゆん共通の知り合いで少し怖い人だ。そして昔かなりお世話になった人でもあるのだが正直なところ、あんまり会いたくは無い人だ。 「大体そもそも仲良かったっけ?」 僕の記憶が正しければ結月とその店の店長は仲が悪いってレベルではないのだ。昔は敵対していた人でもあるし。 「ん?あぁ、過ぎた事には興味は無いみたいだよあの人」 そんなに器の大きな人じゃあ無いぞ。また良からぬ事を考えているんじゃ無いだろうなたの人は……。 「あ、大丈夫だって。三味さんが考えているような事は何も無いから」
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