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『七番ホーム、10時35分発〇〇行きの電車はまもなく到着します。この電車は××発、△△経由、〇〇行きです……』
スピーカーから駅のホームに流れる若干機械合成のような声がホーム中に広がる。
「……西野園、あと七分で電車が到着するんじゃなかったのか?」
西之園が指摘した時間から軽く十分は過ぎていた。西野園に半ば無理やり引っ張られたせいで背中は軽く汗ばんでいて気持ちが悪い、本当になにがしたいんだか最近西野園がよく解らなくなってきた。いや、昔は全くわかんなかったけどさ。
「すいません、時間を間違えてしまいました。どうぞ」
「……ありがと」
いつ買ったのだろうかはたまた家から持ってきたのかトートバックからキャップ付きの少し大きいコーヒーを受け取り一口飲んだ。
「最近西野園さ、結月に悪い影響受けてない?」
「え……」
おい今すごい声上げたよこの娘。出会ってから三年以上経つけど初めて聞いたかもしれない。
「三味さん、流石にそれは凹みます……」
「まあ実際あれ(結月)程は酷くないけど最近の西野園テンション高いよね。何かいいことあった?」
「はい、毎日が良い事だらけです!こんなに充実した毎日が送れるとは夢にも思ってなかったですから」
「なんで楽しいの?」
「それは三味さんには言えません。言ってしまうと今の人間関係が崩れちゃいますしそれに三味さんには自分で気づいて欲しいですから」
「なんだそれ」
そして改めてその幸せを噛みしめるように微笑む西野園。今の彼女は僕と違って感情豊かだし感情の乏しい僕なんかには解らないことなんだろうな、……そう思うと何故か少し悔しい感情に襲われた。何なんだろうこの気持ちは……。
「三味さんは楽しくないですか?昔と違って今がとても充実しているとか思いません?」
そりゃあ昔と比べたらダンチだけど、
「今の日常は結構好きだけどそれでも特別今が幸せだとは思わないな」
「じゃあその比較的好きな日常は去年は感じることができましたか?」
そう言われると感じたことはないな。去年の僕は殺伐としていたしそれになによりそんな感情を持てるほど気持ちに余裕が無かったからな。
「……無かったかもしれない」
「つまりはそう言うことです」
「?」
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