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「やっぱり今の流行はスポーツ系よ。でもメジャーなのは面白くないわね……」
「そうですねえ……。それに今回の同人誌には、できるだけたくさんの話を描きたいので読み切りがいいですよね」
空が橙色に染まり、明かりをつけていない教室で、二人の少女が熱心に話し合っている。
「マイナーなのがいいかしら。 あ!新スポーツを考えるのはどう?」
「え、例えばどんなのですか?」
「うーん……、わからない!ユエちゃんは?」
「えっ、私ですか……言い出したのはモモ先輩なのに……」
ユエと呼ばれた少女と、モモと呼ばれた少女は向かい合ってはなしていた。
二人以外に人はおらず、教室はユエとモモの話し声だけが響ている。
「はっ!でしたら魔法を使わないスポーツマンガなんてどうでしょう!」
ユエは座っていたいすを倒すほどのいきおいで立ち上がる。 モモもまけじといきおいよく立ち上がり、
「いいわね!新しい?それだったらスポーツ以外でも、魔法より科学が発展した世界とか、魔法を使うことができない主人公とかいろいろ応用がきくわね」
そしてモモは満足そうにうなずく。 ユエの愁いに満ちた顔に気づかずに。
「じゃあ、一、二個くらい話考えてきてちょうだい。 すぐにでも作画作業に入れるようにがんばりましょう」
「あ……はい……」
ユエはモモに手を振り、教室を出ていく背中を見送った。 誰もいなくなった教室で一人、立ちすくんでいる。
その顔は怒りや悔しさといった情念が表れていた。
(どうして……)
ユエの思念は言葉に変わる。
「どうして、能魔なんかに……っ」
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