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「なんなんだコイツ……てか大丈夫か?」
何故曲がらずに塀にぶつかったのかは置いておいて、とても鈍い音が聞こえた。
見れば額は赤く、頭を打ったようだ。血は出ていないが、放っておく訳にはいかない。
取り敢えず、ミネラルウォーターでハンカチを軽く湿らせて額に当てるが、気休めだろう。
「だが、これは助けたらテンプレなんじゃ……」
「そー君?~っ!」
「こ、この声は……」
声に振り返ると、やはりというか。というより、僕をそんな呼び方で呼ぶやつは一人しか居ない。
僕が来た道から走ってきたのは、左右に揺れる長いブラウンの髪――幼馴染みだ。
回避したつもりだったが、もう気付かれてしまったか。
「もう……はぁ、はぁ……いつの間に……出てたの? 全く……気がつかなかったよ……ふぅ」
家から走ってきたのだろう、肩で息をしている。そこまでして僕と登校したいというのだろうか。
だが、その時の僕の表情は、状況に反して相当な悪人面をしていたに違いない。
「丁度いい、翠華(スイカ)あとは頼んだ」
「え? ……どどどどうしたのこの娘!?」
「何かいきなり塀に突進して気絶した。ということで僕は面倒なので先に!」
矢継ぎ早に、至極簡単に状況を説明して回れ右。方角は勿論、学校。
「え、そー君!」
幼馴染みの狼狽した声など耳に入れず、僕はその場を離れた。
流石僕、テンプレを二つも回避することが出来た。
だが、少しの罪悪感。
「……翠華すまん。だけど、テンプレなお前も悪いんだからな」
面倒を押し付けてしまったが、アイツならきっと、何とかしているだろう。
そう信じて僕は学校へ向けて歩き出した。
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