【挨拶】

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A街。 とても治安の良い、安全な街ということで有名な街だった。 子どもが公園で1人で遊んでいても、 女性が夜に1人で歩いていても安心だった。 色々な地域の役所の職員や、 大学の教授達が、その安全性の調査に度々訪れた。 調査の結果、 住民達の「あいさつ運動」が 効果を上げているのではないかと思われた。 住民達は、道端ですれ違えば、お互いに二コリとほほ笑み、 気持ちよく挨拶を交わす。 大人も子供も、知る人も知らない人も、 一言お互いに交わすことが当たり前だった。 ある日の昼下がり。 重要犯罪人が、刑務所から脱走した。 テレビではニュースキャスターが、 「現在、警察が犯人を追跡していますが、 犯人はA街の方向に逃走したとみられています」 と読んでいる。 安全な街に衝撃が走る。 ニュースを見た人達は、戸締りをし、外出を控えた。 母親達は、学校へ子どもを迎えに行った。 学校では職員やPTA、地域の警察が緊急会議を開き、 子どもたちを守るため、ある決まり事を作った。 それは、 『知らない人に会ったら、話してはいけない』 というものだった。 次の日、街中には 『知らない人と話してはいけなよ!』 『知らない人に付いていってはいけないよ!』 というような立て看板が至る所に立てられた。 家庭でも親達が、子どもたちに口を酸っぱくして注意と警戒を促し、 防犯ブザーを持たせた。 子どもたちは知らない人と会うと、 目を会わせないように走りだし、一目散に逃げ出した。 3、4日して、ついに犯人が捕まった。 しかし、街はすっかり変容してしまった。
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