【自責】

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「別れてほしいの」 論文を提出し終わったと同時に, 彼女から別れを切り出された。 さすがに広澤は,動揺した。 しかし,彼女が別れ話しをするのも当然だと思い, 「そっか」 と,努めて冷静に呟いた。 「あなたに貸した物は,来週のゼミのときに持ってきて」 別れを決めた女ほど強いものはないと広澤は思う。 淡々と話す彼女は,まるでシュミレーションをしていたかのようだった。 いや,俺が論文にかまけている間に, 繰り返し繰り返し今日のことを想像していたのだろう。 広澤は,どこかに逃げ出したくなって, 自動販売機に小銭を入れ, 飲み物を買って飲んだ。 思っていた以上に喉がカラカラに渇いていたことを知ってびっくりした。 それは,自分があまりに動揺し, うろたえていることを自覚させられ, 余計に追い詰められた。 広澤は飲むのを止めた。 かすかに,缶が震えていた。 「それじゃあ,また来週」 「――うん」 去っていく彼女を広澤に, 止めることなど出来ない。そんなことは出来ないのだ。 俺は,彼女が1番自分を必要としているときに, 側にいたときなど一度もなかった。 毎日毎日,「論文だ、論文だ」と研究に没頭していた。 メールや電話をする時間は確かにあった。 しかし,いざ彼女とそうし始めると, なんだか妙に無駄な時間を過ごしているような気になり, 不愉快で,すぐに切ってしまった。 以前彼女は 「文献を彼女にしたら?」 と真顔で言ったことがある。 またくだらないことを言い始めたと, 呆れ気味に 「そうだね」 と生返事をすると,彼女酷く悲しそうな顔をしていた。 その夜,彼女がいないという現実味のない焦燥感に胸が圧迫されて,眠ることはできなかった。 【END】
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