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「あー、ついてねぇな……」
つい癖になってしまった独り言がまた口をついて出る。だがまぁ行きつけのコンビニに向かう通りが工事中ならば少しくらい愚痴っても仕方がないだろう、多分。
「あのー、ここやっぱり通れませんよね?」
あまり期待は持たずにメットを被った兄ちゃんに聞いてみる、鉄骨を吊るしているクレーン車の横には人一人通れそうな道はあるが見た感じ危なそうだし無理と言われれば納得はできる、すこぶる面倒だが……
「あ、いや別に大丈夫ッスよー。人通りまーす!!……あ、こっちどぞッス」
意外にも気のいい返事が帰ってきた、メット兄ちゃんはクレーン車の横に付いて蛍光棒を左右に振る。コレは全くついてないわけでも無いようだ。「ども。」と短く会釈して横を通る。
……しかしまぁこんな広くもない通りでクレーンは大変だろう、俺なら間違いなく民家に鉄骨を打ち込む。そんな事を思った……思った時だった。
「だぁーくしょいっ!!!」
勢い良くくしゃみをした、ソレはもう豪快に、ココ数年の中でも軍を抜いての勢いだと自信をもって言い切れる。もはやスッキリを通り越して頭が痛くなるレベルだ……なんて感心をしている最中。 「おわっ!?」
俺を案内するために真横で棒を振っていた兄ちゃんがくしゃみに驚いてバランスを崩す、いやそりゃ唐突にギネスレベルのくしゃみされたらびっくりするだろう……そこからはまるでマンガの様な出来事だった。
バランスを崩した兄ちゃんはガツンと音を立ててクレーン車にぶつかった。いきなり衝撃を受けた運転手のおっさんは手元の操作を誤った。クレーンのアームはぐるりと半円を描きながら俺の方へ向かってくる……サビ防止のための塗料だけが塗られた鉄骨をぶら下げて。
「……は?」
一瞬、本当に一瞬だ。俺の記憶にある最後の映像は視界いっぱいに広がる赤褐色の壁、後はブッツリと消えてしまった。
……つまりを言えば俺はここで死んだらしい
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