君が去った部屋に残された お揃いのマグカップ

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初めてのデートの記念にと 一緒に選んだね 初めてのデートの夜 初めてキスをした日 初めて同じ朝を迎えた日 初めて君が真っ赤な顔をして荷物を持って来た日 残業の無かった日 お互いの誕生日… 何でも記念日にして お揃いのマグカップに入れ乾杯をしたね 昨日の事のように感じうつむき フッと笑う僕は部屋の静けさと 君の居ない空気の重さをかき消すかのように テレビを付ける 賑やかな笑い声に僕も笑顔を作る 笑顔が崩れてゆく自分に 気付かない振りをして 必死に口元を作り瞳を細めながら 笑い続ける この淋しい部屋中に響き渡るよう この冷たい部屋中に この僕の大きな笑い声が 楽しい笑い声に聴こえるように この楽しそうな僕の笑い声が 風の強い桜の木々達も震えそうなこんな夜 足早に家路へ急ぐ人達に この僕の大きな大きな 楽しそうな笑い声が聴こえる位 笑った 笑い続けた 涙が頬をつたう 笑い続けてしまった ハンカチで目頭を押さえる 何故だろう こんなに笑っているのに テレビの音が聴こえない テーブルの上に 君の飲みかけのコーヒーが… 僕は触れる事が出来ない 君がまた あの日のように恥じらいながら 荷物を持ち チャイムを鳴らすような気がして
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