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「お疲れさまでした…。無事だったんですか…?」
私はわずかに渉さんの顔を覗き込む。
「ああ、なんとかな。今日の遅れを取り戻さなきゃなんねえけど、大丈夫だろ。工場の奴らはまだ残らなきゃなんねえけど、俺がいたらかえって気疲れすんだろ?現場のことは現場の奴らに任せときゃ間違いねえし、俺は退散してきた」
私は少し張りつめていた何かを緩めて口元で笑った。
「…会長がお聞きになったら…喜びますね」
「は?親父が?」
「はい。きっと喜ぶと思いますよ」
渉さんは返事をせずにまたワイングラスを持ち上げた。
「望愛、親父…今日、泊りだって」
「…え?そうなんですか?」
「ああ。だから…遠慮なく…な?」
渉さんはワインを飲み込んで、唇を舐めた。
「…ご、ご飯の準備しますね」
私は佐和子さんのいるキッチンへパタパタとスリッパの音を立て駆け込んだ。
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