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最後の校歌を歌い終えた俺は、黒い筒に詰まった一枚の紙切れを片手にして校門をくぐった。
もう、ここに通うことはない。三年間通った中学の学び舎は相も変わらず無愛想な灰色のコンクリートに塗り固められているが、そこかしこが飾り付けられていて違和感を覚える。
雲ひとつない快晴のもと、一陣の風が吹き抜ける。春三月とはいえ、それはまだまだ温いというところにも達していない。俺は肩をすくめて歩を進める。一歩ごとに、中学生活が過去になる。
中学校の敷地をぐるりと囲む桜の木々は、ようやく一輪、二輪と花を咲かせ始めたところだ。味気ない見送りが、俺の中学生活を象徴しているような気がする。
ふと、これまでのことを振り返る。思い出に浸るような趣味はないが、この時ばかりはさすがに考えずにはいられなかった。
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