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「おっシュウおはよー」
後ろからそう声を掛けてきたのは、スキンヘッドに筋肉隆々の、いかにも格闘派といった色黒の男だった。
「おう、ジェイクはよ……ってもう昼だぞ」
彼はこの眠り姫の塔に来て初めて出会った人物だった。初心者丸出しだったシュウに、色々教えてくれた兄貴分だ。
もっともDDSでは現実世界と同じ容姿である必要はないから、リアルの名前も姿も知りはしないが。シュウも金髪で精悍な顔つきの青年の姿だった。現実とは似ても似付かない。
「今日は休みだったんだよ。お前こそいつもいるじゃねーか」
シュウは苦虫を噛んだ顔をして、うるせーよ、とだけ言った。
事実、シュウは昼夜問わずDDSに入り浸っていた。
自宅警備員、つまるところヒキコモリがシュウの今の職業だった。三ヶ月前から高校に行けなくなってしまった。それから食事と休憩以外はDDSの世界に入り浸っている。
「俺のことはいいんだよ。それよりどこまで進んだ?」
シュウはわざとらしく話題を変える。この話には触れてほしくなかった。
「おう。今は二十三階だ」
「まじかよー! 俺まだ十五階」
「早い方じゃねぇか。始めて二ヶ月だろ? 筋いいんじゃねえの」
その言葉にシュウは苦笑した。
今、先頭のプレイヤーは五十七階にいるらしい。『眠り姫の塔』は全七十七階。シュウにとっては、文字通り雲の上だった。
「そんで、今日はどーすんの?」
「まだ今のとこでレベル上げしようかなって思ってる。ちょっと上げとかないと次の階上がってすぐ敵出てくるらしいし」
ジェイクはそっか、と笑った。
「西の小部屋は行った? あそこ回復の泉あるし、レベル上げんのにはちょうどいいと思うよ」
「まじか。サンキュー」
ジェイクはこういった細々したことをよく知っている。その情報にシュウはいつも助けられていた。
ジェイクと別れて、シュウは西の小部屋へ向かった。
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