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シュウは一心不乱に剣を振っていた。
動いていないと思考に飲み込まれそうだった。現実世界のことなんて考えたくもなかった。
――母の涙
――兄の後ろ姿
――無機質な顔の並ぶ教室
その全てをなぎ払うように、剣を振るった。
モンスターを全部倒して、剣を降ろした。シュウの息は上がっている。肩は大きく上下している。でもそのおかげで、さっきまで考えていたことは思考の彼方へ追いやられていた。
シュウは回復の泉へ足を向けた。噴水のように湧き出る水に直接口を付けて、水を飲む。
その時、泉の淵に何かあるのに気が付いた。右手の人差し指に触れたそれは、見てみるとスイッチのようなものだった。こんなものがあるなんて聞いたことがなかった。シュウは少し悩む。これを押したらどうなるだろうか? まぁヤバそうになったらリアルに戻ればいいかと思って、シュウはそれを押した。
ガコンと大きな音がして、泉が動き出した。シュウは慌てて一歩下がる。現れた空間にいたのは――
髪の長い少女が横たわっていた。小学生くらいだろうか。小さく丸まって、気持ち良さそうに寝息を立てている。
一瞬、新たなモンスターかと思ったシュウだが、よくよく見れば人の形をしている。プレイヤーのようだ。
「おい、大丈夫か?」
シュウは肩を揺すった。少女はうーんと唸って、ぱちっと目を開けた。
「わぁ! 見つかった!」
そう言って飛び起きた少女の頭は、シュウの顎にクリーンヒットした。お互い痛みに悶絶する。若干涙目になりながらも、一足早く回復したシュウが声を掛けた。
「いってぇなぁ……。おい、大丈夫かお前」
少女は額を押さえながら涙を浮かべていた。
「うん……大丈夫……。あー見つかっちゃったぁ」
「お前、プレイヤーか?」
少女は首を傾げた。
「ん? 私はここででかくれんぼしてただけだよ? 隠れてる間にいつの間にか寝ちゃったー」
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