第1章

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春は命の生まれる季節だと誰かが言ったらしい。 でも僕は、そうは思わない。 春は優しい季節なんかじゃない。 その証拠に、僕はまた、桜花爛漫のこの季節に、桜の下で泣きじゃくっている。 川のせせらぎに、風が木々を揺らす音に耳を傾けた。 「命の音だね」と君がふと言った。 あの春は、あの君はもう戻らない。 桜の木に集まる小鳥たちはなにも知らずに今日もさえずる。 あぁ、その木の下に僕の愛した君の亡骸が眠っているんだ。 儚く笑って死んだ君を忘れられるわけもなく振り返る。 幸せと思って過ごした日々の記憶が突き刺さる。 君の笑顔も春の空にかすみ、僕はもう笑えない。 桜の木を何度もきつく握った拳で殴る。 君を返せ、と泣き喚く僕は、まだここから動けずにいる。 肌が破れて血が滲んでも桜に憎しみをただぶつけ続ける。 そうでもしないと僕までも死んでしまいそうだ。 優しい春の南風が、僕を包んで通り過ぎていく。 その温かさも今は僕を傷付けるだけだ。 早く、春よ終われ....。
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