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翌日、彼女は行動に出た。と言っても、何か大がかりな事をする訳では無い。優奈のベッドの横に座って、一言。
「優奈ちゃん、お願い事あるかな?」
こんな質問を、1日に何回もする。繰り返す事で、やがて認識してくれるのではないかと考えたのだ。最も、声が出せないのであれば返事なんてできないが。
それでも、奇跡という僅かな可能性に賭けて、彼女は何日もそれを続けた。
いくら反応が無くとも、諦めない。血の繋がりはなく、話したことすらない優奈だが、そんな事は彼女にとって関係無い。“助けたいから助ける”という医者の考えと似た、純粋な気持ち。
その思いが通じたのか、二週間程経ったある日、優奈に大きな変化があった。
「おいん......きょ......」
なんと、彼女の質問に答えるように、小さくだが、声を出したのだ。よく聞き取れなかったので、慌ててもう一度質問する。
「おい......んきょ......」
(“おいんきょ”......お人形?)
人形が欲しいと言っているみたいだ。しかし、どんな人形が欲しいのか分からない。それに、優奈は答えられるのだろうか。不安になりつつも、質問を続ける。
「どんなお人形が欲しいの?」
「......」
答えない。何度も繰り返した質問でなければ駄目なのか。ともあれ、これは大きな成果だ。今日はここまでと、病室を出ようとしたとき、
「ないたい......」
再び、優奈が口を開いた。そして、もう一度......少し高い声で、
「おいんきょ......ないたい......」
“お人形になりたい”と言った。
看護士は、ドアの前で固まる。優奈は、泣いていた。うっすらとだが、無表情のまま目に涙を浮かべていた。泣きながらの懇願。まるで、自分の人生があと少ししか無いのを分かっているような、そんな様子だった。
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