一歩目 「始まり」

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世界地図を必死にアピールして、資料室の中を横切った。 心臓が口から飛び出てしまいそうだ。 あの荒木直くんと話してしまった! 目が合ってしまった! ドキドキと荒らぶる心臓を胸に、棚へと世界地図を片付ける。 それでも直くんが部屋から出て行く様子はない。 それにさっきから何か視線が……。 居心地の悪さを感じて、そろりと視線を向けると、 「!」 直くんが、腕を組んだままこちらを見ていた。 「………な、何か……!?」 「さっきの、見た? よな?」 真っ直ぐな瞳が、あたしを試すように見る。 かりかりとその淡茶色の髪を掻いて、気だるそうに。 あたしは神妙な面持ちで、気まずく視線を落とした。 「だ、誰にも言いません、し……、」 「当然だろ。勝手に言って回られても困る」 「……、」 ごもっとも。だけど一応、頼む立場にあるはずじゃ……。 「名前は?」 「えっ、」 「あんたの名前」 「あ、あたし……!?」 「……あんた以外に誰が?」 「あ、は、はい……! み、宮里楓奈、ですっ」 「ふうな?」 「ふうな……!」 「2年?」 「はい……っ」 「何組?」 「2組、です……っ」 「……ふーん」 何の確認だったのだろうか。身元を押さえて、バラすなよって牽制? それはともあれ、呼ばれた名前はラッキーパンチ。 今日のこと、一生忘れない……! 突然のミラクルに昇天してしまいそうだった。
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