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春。
ありとあらゆる方法で願った夢は、儚く散った。
高校に入って通された二番目の教室で、あたしは舞い散る桜の花びらを見つめていた。
宮里楓奈。
中肉中背。成績も顔もスタイルも並の並。
特技はなんだろ。特に思いつかない。
欠点を言うなら、たぶん。欠点がありすぎること。
至って普通の、女子高生である。
とは言っても、これでも一応、恋はしている。
恋と呼べるものではないかもしれないけれど、この1年ずっと彼のことを見てきた。
名前は、荒木直くん。
恥ずかしながら、一目惚れ。
太陽に透けるような、少し癖のある淡茶色の髪に、二重の瞳。うっとりしちゃうような整った顔立ちで、すらっと長身。
女の子の理想を詰め込んだような彼に、一瞬で恋に落ちていた。
もちろんそれは、あたしだけじゃない。
彼を見たほとんどの女子たちが、あたしと同じく時を止めていた。
――高校生活、すごく楽しくなるかもっ!
あの日抱いた期待は、すぐに気体になって消えてった。
それから、1年。
何も変わらず、遠目から見ているだけのあたし。
今でも彼が廊下を通るだけで、ざわりと揺れる。身体中が緊張する。
他の女の子たちの甘い視線も健在で、だけど彼はそんなこと気にも留めない。
そんな彼だ。
告白したってフラれるだけだろう。誰に忠告されなくてもすぐわかる。
だからこそ、願っていた。今年こそはと祈っていた。
同じ教室で過ごせれば、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないって、思っていた。
――だけど。
2年2組になったあたし。
2年3組だった、彼。
転機が訪れたとすれば、今日、この日。
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