1819人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あ」
その時、直くんから小さな声が零れた。
「楓奈、あそこ!」
「――っ!」
あたしを追い抜いた直くんに、ギュッと手を引かれて面喰った。
まだ「ごめんね」も「いいよ」も交わしてないのに、直くんはもうなかったかのように走り出している。
腕を引かれて慌てて続いた。
浴衣姿にはギリギリのスピードで直くんが駆けていく。
「直くん……!?」
すると、辿り着いた先は陸橋の下。
「ここからでもギリで見えんじゃね?」
陸橋を半分進んだところに、二人分のスペースが空いていて直くんがしゃがみこんだ。
「うん。楓奈も早く」
直くんが頷いて、手招きする。
今のあたしの無礼な態度に何も言わずにいてくれるのだろうか。
ごめんねって言いたいけど、それも言葉にならずに佇む。
立ち竦んだあたしを見て、直くんが静かな視線を向けた。
「拗ねてないで、早く」
最初のコメントを投稿しよう!