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――火が付いた。
触れては離れる唇に、全てが翻弄された。
真後ろから「ちっ」という舌打ちが聞こえてきても、離れることが出来なかった。
花火大会の前半部門が終わった時、どちらが言うともなく一様に立ち上がっていた。
直くんに抱きかかえられる形で、どうにか歩いた。
続いた先は、陸橋の先。
向こう側の川べりまで歩いて、人目を避けて再び触れ合った。
押し付けられた陸橋の、冷たいコンクリートの壁。
背の高い直くんと、今日は少しだけしか距離はない。
下駄と、そしてこの微かな傾斜が二人の距離をもっと近いものに変えていた。
最初こそ唇だけが触れていた距離も、今では直くんの折った腕が顔の真横に置かれていた。
覆いかぶさるような甘い距離と、深いキス。
前まで、確かにあったハードルが今はもう完全に消えていた。
唇で直くんを感じる。前よりずっと近くに感じる。
もうこのまま時間が止まってしまえばいい。ずっとこの腕の中で、感じていたい。
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