十歩目 「手当て」

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大津ルリと名乗った彼女が、目の前でコーヒーをすすっている。しかもブラック。 見た目、美人でモデルみたいな彼女がブラックコーヒーで、見た目、へんちょこりんでお子様なあたしが、チョコパフェとオレンジジュース。 『好きなものを頼んで』という言葉を、そのまんま信じてしまったあたしが悪い。 注文一つ取っても負けた気がした。 「どうぞ食べて。あたしはあんまり甘いものは得意じゃなくて……」 「……っ!」 スプーンを持つことさえできず、固まっていたあたしに彼女が言った。 素敵な人だ。頼まなかった理由をさらりと言える心遣いにますます負けを痛感した。 会釈をして、おずおずとアイスクリームを掬い取った。 目の前で、ルリさんが「ふっ」と笑う。
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