十歩目 「手当て」

4/31
前へ
/482ページ
次へ
「そうなんだ。どうやって付き合い始めたの? 宮里さんからコクったの?」 「一応、……直くんから」 「……へぇそうなんだ」 「!」 明らかに、声のトーンが変わった。 言わなければよかった、と思った。 しかし、顔を上げた時にはもう遅い。あからさまに興味を失ったらしいルリさんは、チップの取れた、それでも長い爪を見ていた。 「じゃあ、付き合ってどれくらい? もうえっちはしたの?」 「――ぶっ!!」 咄嗟に、噴き出してしまった。ルリさんの方まで飛んだバニラのアイスに、慌てて紙ナプキンを掴む。 「――あ、まだなんだ」 「!」 ルリさんの声が、明らかに変わった。その明るい声色は、最初にあたしに話しかけた時と変わらぬ、愛想のいい声で。 ますます、しまった、と思った。 嘘でも済んでますと言えば良かった。 だって何だか物凄く……。 嫌な予感がするから。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1819人が本棚に入れています
本棚に追加