一歩目 「始まり」

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「宮里~! 暇か~!」 先生の太い声をちらりと黙認して、頬杖をつき直した。 「暇じゃないです」 「まぁそう言うな。桜を眺めているだけのお前に有意義な時間をやろう」 「は……、」 「これ。資料室に頼む」 にっこりと有無を言わさない笑顔に押しきられ、言い渡されたのは校舎の端の端にある社会科資料室へのお遣い。 「なんであたしが……!」 直くんとは同じクラスになれないし、2年生になって早々、ついてない。 大きな世界地図を、もはやモップのように引きずりながら、湿っぽくて薄暗いその教室の前にたどり着いた。 「失礼します」 誰もいないはずの資料室に律儀に挨拶をしてドアを開ける。 「っ!」 するとそこに、いた先客。人はいないものと思っていたあたしは大袈裟に固まった。 「あ……っ」 先に声を上げたのは彼の腕の中にいたその子だった。 「――ごめん。付き合えない」 「あっ、は、はい……!」 しかし男の方はあたしのことなど気にも留めず、マイペースにそう告げた。 今のはどう見たって、キス(小声)していたようにしか見えなかったのに、「付き合えない」……だと? あんぐりと口を開けて立っていると、顔を真っ赤にした女子生徒があたしの脇をすり抜けて行った。 あの子の香水だろうか。ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。 残された資料室で、あたしはただただ呆然と立ちすくんでいた。 なぜならそれは、目の前に立っていたのが、あの荒木直くんだったから。 夢でも見てるの? 「あんたも俺に用?」 面倒くさそうな物言いに、何が言いたいのかすぐに分かった。 「ち、違いますっ! あたしはこれを、持って来ただけで!」
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