十歩目 「手当て」

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明らかにホッとした顔。2週間が何故、ホッとする!? 「直くんから聞いてるか分からないけど、あたし、昔直くんと付き合っててさ。あの頃、4ヶ月は付き合ったかなぁ。直くんて見た目とは違って奥手でしょ? 付き合って2週間もたつのに、えっちしないなんて」 どんな貞操感だ。付き合って2週間でえっち!? えっちするものなの!? 「それで、直くんに焦ってもらいたくて、お兄さんに近づいたんだけどね。そしたらお兄さん、すっごいかっこよくて、すっごく素敵で……。ちょっとだけ気の迷いが生まれちゃったんだよね」 「……、」 どうしてあたしは、聞きたくもない彼女の話を聞かされているんだろう。 直くんを傷つけた話なんて聞きたくない。 「きっと直くん、あの時のこと怒ってると思う」 「……!」 ぽつりと呟いた彼女の声が、今までとは比べものにならないくらい、低く沈んだのが分かった。 咄嗟に上げてしまった視線に、彼女の寂しそうな表情が映る。
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