1.時を止めた年月(じかん)時間 

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「時雨、氷雨君の写真見せてください」 促されるままに、携帯を掴んだ時雨。 時雨の掌から携帯電話を奪うと、 手慣れた手つきで氷雨君からのラストメールを開封する。 「見て、ここ。  氷雨君のメールに映ってた気がしたんだ。  この人、小さくて見づらいけどあの仲西さんって人と似てない?」 そう言った私に時雨もじっとその写真を食い入るように見つめていた。 「時雨の親父さんも氷雨も警察に殺されたって事か?」   飛翔の絞り出したような声に緊迫感が増す。 「それがどうかはわからない。  ただその写真は、  あの場では見せられない。  写真の主と一緒に居る米田さんにしろ  話せるはずがないよ」 三人で話している最中、仲西さんが近づいてくる。 「病院との電話は終わったかい?  先に手続きを進めたいんだが」 私は手にしていた時雨の携帯を自らのポケットに電源を落として 突っ込んだ。 「はいっ、今行きます」 そう答えながら三人でアイコンタクト。 何とか、この場を乗り切って小父さんと氷雨を連れて帰ろう。 再び、建物に戻った私たちは小父さんと氷雨に対面した。 粉砕された頭蓋骨。 原型の留めていない顔立ち。 安置所に横たえられている遺体は決して綺麗な状態ではなくて。 見ているだけで、吐き気がこみ上げてくるような状態だった。 「時雨君、これ以上は……」 そう言いながら、米田さんが二人の遺体から時雨の体を放すと、 仲西さんがもう一度遺体にビニールを被せた。 「正直、俺も信じられないんだ。  貞時が薬物の乱用だなんて。  アイツを知ってる奴らも、貞時が麻薬の常習者だと思ってない。    だが警察官が麻薬をしてたなんてことが、世間に出たらマズいんだ。  それは時雨君もわかってくれるな」 そう言うと、米田さんは時雨の肩をトントンと叩いた。 「司法解剖の後、火葬できるように手続きをとる。  俺も見送るさ」 そう声をかける米田さんに仲西さんも頷いた。 翌日、司法解剖が終わった二人の遺体は、 遺体成形が出来る部分だけ終えて、棺に入れられて、 火葬場と隣接するセレモニーホールに運び込まれた。 誰も参列者のない通夜。
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