13人が本棚に入れています
本棚に追加
辿りついたのは夕方。
時雨は何かにとりつかれたかのように
先ほどとは違って、スタスタと歩いて建物の中に入っていく。
それは、弓矢が放たれる直前のような緊張感も漂っていて、
私を不安にさせた。
「遅くなりました。
お電話を頂きました、金城と申します」
受付で声をかけると、
中から一人の男の人が近づいてくる。
「遅かったじゃないか」
そう言いながら近づいてくる男性。
その顔は氷雨くんが送ってきた顔写真の中の一人。
思わず、時雨の手を掴む。
「飛翔、由貴を頼む」
飛翔が私の傍に近づいてきて、
自分の方へと引き寄せる。
「おぉ、時雨君か?
大きくなったなー。
こらっ、仲西(なかにし)、
こちらは金城警視正の息子さん。
時雨君だよ」
「米田さん、ご無沙汰しています」
時雨たちの会話を聞きながら、氷雨君からのメールの顔写真と、
伝えて欲しいと綴られていた米田さんの顔をじっと見つめていた。
「米田さん、では息子さんを……」
トーンを下げたような面持ちで
告げる仲西さん。
「あぁ。
時雨君、聞いてくれ。
貞時(さだとき)と氷雨君の死亡が確認された。
仲西からの連絡を受けて、 俺たちが駆けつけた時には、
薬物を乱用して屋上から地上に飛び降りた後だった」
時雨の後ろで、聞きながら背筋が凍っていく。
薬物?
乱用?
そのキーワードは、
小父さんにも氷雨にも似合わない。
「時雨くんだったね。
最近、金城警視正や氷雨君から
メールが届いたり、何かなかったかい?
俺たちは、警視正が亡くなった原因を突き止めたいんだ」
仲西と紹介された若い男は、そうやって言葉を続けた。
時雨の手がポケットの中へと入っていく。
だけど私の不安は消えることがない。
私はポケットの中から携帯を取り出して、
着信が入ったかのように必死で演じながら時雨の傍へと近づく。
「時雨、病院から電話がかかってきたみたい。
時雨が携帯に出ないからかな」
そう言いながら、時雨の腕を引き寄せる。
「すいません、外で電話してきます」
そう言って時雨の腕を掴んで、その場所から離れる。
私たち二人の後を飛翔も黙ったままついてきた。
最初のコメントを投稿しよう!