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「武士は死するまで、武士であったのでこざいますね。」
「……そうさな、根っからの戦人(いくさびと)だ。」
「左様に。」
言葉を返しながら、小十郎は思う。
(梵天丸さまとは違う……いや、このお方が、真に梵天丸さまのゆく末であらせられるならば――――)
考えて、己の滾りを感じた。
気付くとその震えは、先刻までの【恐怖】とは全く別のものになっている。
男は、恥じた。
(暫時でもこのお方を差し置いて恐怖に屈するなど、とんだ大ばか者だ。臣たる事の微塵も、俺は理解していなかった。)
そして。
「……政宗さま」
「何だ?」
「失礼を、仕まりまする。」
一礼し、脇差を抜く。
素早く政宗の前途を整えると、その道を見据えて小十郎は言った。
「共に参りましょう、摩天楼…その頂に。」
政宗は満足気に笑み、頷く。
「それでこそ、我が右目だ。」
再び闇に染まる二人を、小さな灯火たちが見送る。
後方から新たな足音が迫るのを
見つめるのはまだ、摩天楼だけだった。
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