第1章

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全ジャーや眼鏡ら一部観客が事態を少しずつではあるが飲み込もうとする中、一青は困惑していた。 (なんでだ、さっきまではオレの強ぇ球がバシバシ決まってたじゃないか。 おかしい、オレはいったいこいつになにをされてるんだ?) カウントは6ー2 楓の横回転の掛かったサーブをバック側のコーナーにツッツキでレシーブ そのレシーブを楓は浮かせてしまう、絶好のスマッシュチャンスだと言わんばかりに力強い打球を打ち返す一青の目に映ったものは ゆるやかに、決して打球に逆らうことなく丁寧にラケットに角度をつけて腕を上から下へと降り下ろす楓の姿だった。 洗練されたフォームから繰り出された下回転の打球を打ち返そうとするがことごとくネットに阻まれた。 気付けば一青は1セットを失っていた。 「なるほどなるほど。 ここ数年いかに攻撃的に点を取るかに躍起になっているこの世界でまさか"カットマン"たぁ驚かされたなぁまこっちゃん」 「確かに最近は見かけなくなったな、ましてや男子プロでとなると引退した松下浩司選手を最期に現れていないね」 一青の型がどんな球をも打ち返す攻撃の頂点だとするならば、楓のそれはどんなに凄まじい攻撃だろうと無力とさえ言える守りの頂点。 この二つの技術の差はすなわちシンプルに実力の差として現れる。 果たしてここから一青の逆転は可能なのだろうか。
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