不機嫌な彼女

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 マミが初めて類と会ったのは、キャバクラの面接日だった。当初、マミは紗々ではなく、同じ系列のキャバクラで働こうと思っていた。 面接の日、少し緊張しながら店の階段を上がろうとすると、傍に若い男がへたり込んでいる。男の近くには大量のペットボトルと、段ボールがいくつか積まれていて、階段前を塞いでいた。 この大荷物をどうやって運んで来たのか、どこに持っていくのかわからなかったが、男は荷物の前で、「重いからっ」「なんでオレが一人でこんなに…」とぶつぶつ文句を言っている。荷物の量に合わない華奢な若者だった。 マミは、放っておこうにも階段前を占拠されていたため、仕方なく「ねえ、手伝う?」と声をかけた。もさもさとした頭を揺らして男が顔を上げる。 初対面とは思えない人懐こい笑みを浮かべて 「え!いいの?」とマミを見た。 「あれ、女の子だった?」 顔を見たマミが思わず呟くと、「なんでよ。どっからどう見ても男でしょ」と口を尖らせた。 それが類とマミの出会いだった。 何とか必死に荷物運びを終え、無事面接を受けたマミだったが、店のママは申し訳なさそうに、系列のスナックに人が足りないから、そちらの面接を受けてくれないかとマミに謝った。当時、家を早く出たかったマミには金が必要だったので、仕方なくそちらの面接を受けることにした。 帰り際、少し落胆しながら店のドアを出ると、先ほど荷物運びを手伝ってやった類が、休憩中なのか、スマートフォンをいじりながら階段に座っていた。 類はマミに気付くと側に来て、耳元で「二十歳って、嘘でしょ」と囁いた。 「!」 マミは驚いて類を見た後、しまった、とすぐに下を向いた。 「そんなわけないでしょ」とでも言えば良かったと後悔する。 ママには二十歳と嘘を吐いたが、マミはまだ18歳だった。 「…お兄さんは、いくつなのよ」 マミが恨めしそうな顔でそう尋ねると、類は笑って「二十歳にはなったよ」と言った。 「…お店の人に、言う?」 ため息交じりにマミがそう訊くと、類は首を振って「さっき荷物運んでくれたから、黙っとく」と言った。 妙に人懐こい子だとは思ったが、マミの好みではなかったし、まさか自分が目の前のもさもさ頭を追いかけ回す日がくるとは、その時のマミは夢にも思わないのだった。
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