不機嫌な彼女

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 二度目に類と会ったのは、『紗々』だった。キャバクラより時給の落ちる紗々で働くのは不本意だったが、背に腹はかえられない。マミは紗々の新人として働き始めていた。 マミはもともと性格がキツい。 子供の頃からの性格を変えるのは難しかったし、変える気もなかった。 女に嫌われるのは常だったし、陰険でやかましい女達と馴れ合うくらいなら、チヤホヤしてくれる男と一緒にいる方が楽だった。 実際、マミは入店してすぐから人気があった。 にこにこと笑って接客しているだけで、客は一生懸命マミに会いにやって来る。 中には真剣に、付き合おう、結婚しようという男まで現れた。 マミは上手に笑顔でかわしたが、心の中では「ねえ、バカなの?」と思っていた。 金銭の発生する関係で、なぜ自分だけが特別だと思うのだろうか。お前は私の何を見ているんだ。向かい側のテーブルに移動した後も、お前にするのと同じように微笑んでいるだろうが。 マミはいつもそんなことを考えながら、「男なんて」と思っていた。  ある日の開店前、マミが一人でカウンターに座っていると、数人の女の子達が類の話で盛り上がっていた。 勿論マミは話の輪になど入らない。水商売を始めてから覚えた煙草に火を点けて、隅っこの席で大人しくしていた。 女の子達は、「超かっこいい」だの、「王子様」だの、きゃあきゃあと女子トークが止まらない。 マミは類の名前を知らなかったので、前に会ったもさもさ頭と王子様が同一人物だとは思わない。騒がしい女達に辟易しながら、「王子様とか、バカみたい」心の中でそうため息をついていた。 マミは男にしろ女にしろ、とにかく人が好きではなかった。  酒を飲んで暴れる父親と、ただ泣くだけで、殴られている子供を庇いもしない母親。 マミの家は、随分昔からずっとそうだった。 歳の離れた兄は、高校を卒業するとあっという間に家を捨てて出て行った。 残されたマミは、父親の暴力と母親の怠惰を一手に引き受けて育つこととなる。 父親が酔っ払っては路上で寝たり大声を出したりするので、中学生の頃には近所や学校で有名になっていた。 マミの容姿が他人より少し良かったせいで、女子からも陰湿な嫌がらせを受け続けた。 おかげでマミの周りには、「一回お願いしたい」男共しか寄ってこなかった。 マミの人嫌いの根は深かった。
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