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「君は夢を見ているのか。」
帰宅ラッシュの時間帯にも関わらず、歩道橋の上には僕と黒い男の二人しかいなかった。
僕はよくある怪しい商売だろうと思い、無視を決めていた。
「もし見ていないのなら、それは味気ない人生だ。夢は素晴らしい。その中であれば何だってできる。」
男は話を続けた。
「君も夢を見るといい。ようこそ、夢の世界へ。」
男の顔はフードに隠れ、あまり良く見えなかったが、歪んだ笑みを浮かべていることだけは分かった。
「そうだ、夢の世界への餞別に、その力を見せてやろう。」
男はふらりと横を向き、歩道橋の手すりに足をかけた。
「夢さえ見ていれば、ここから飛んだって…」
次の瞬間、男は落ちた。
車もよく通る賑やかな道だ、誰も咄嗟には反応できなかった。
背筋が寒くなり、心に暗い何かが渦巻いていた僕は、無関係を装い、家路を急いだ。
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