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「……ニャー……。」
「飯を食ったら少しは元気になったか」
暖をとりながら胡座をかく井上の傍にはあの仔猫が存在した。
真っ白い、真っ白い、小さな仔猫。
小さな、小さな身体。
そっと仔猫の毛並みを撫でようとした井上だが、その手は止まった。
「……白を赤には染めるなど……」
「縁起でもない」と、我にかえればずぶ濡れになった自身の羽織を衣紋掛けにかけ、直ぐに床についた。
頭元に置く行灯の灯りは井上を照らす。
真っ白い肌に、長い睫毛。
おなごのような雰囲気を漂わせるが、おなごなどではない。
井上勇太朗
若干十六歳というまだあどけなさも残る顔つきを、寝床に浮かべていた。
飯もとらず、直ぐに床に入った井上の傍に警戒しつつも仔猫は寄り沿い、蒲団の上にのれば井上は小さく呟いた。
「気ままな奴だ」
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