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「……ニャー。」
「お前は此処にいろ。私はこれから会合に……。」
「……ニャー。」
「…………。」
次の日。
日が昇る頃、井上は引戸を閉めようとしたが昨夜の仔猫は後を着いてくる素振りを見せ、井上は躊躇していた。
猫など今まで飼ったことがなく、唯一あるといえば幼き頃、野良猫を追い掛け回したことぐらい。
躊躇していた手を動かせば、仔猫は驚いたように身軽に外にでできた。
それを見つめていた井上は諦めたように、息を吐き出せば仔猫を抱き上げ踵を返した。
「馬鹿にされるな……。猫をつれていけば」
「女を連れてくるなら話は別だが、まさか猫とは……。」
「井上はまだ童だ……。女なんてもんは知らんだろ」
「猫とは腹を抱えるな」
会合場所に着けば次々に、藩士達から言葉が飛び交い襖の前で立ち尽くしたままの井上は、やはり……と、言わんばかりにめ息をつけば懐から顔をひょこりと顔を覗かせる仔猫を畳に下ろした。
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