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端から見れば井上の姿は興味のなさげな様子に見えるが、話し合いの合間に聞こえる単語に時折眉間に皺を寄せ、吉田と呼ばれた青年はその様子を横目で確認しながら藩士達との話し合いを進めていた。
「井上、少しいいか」
一刻程で御開きとなった会合。
仔猫の前に片膝をつけた井上に声をかけたのは吉田で、井上は無言のまま吉田の前に腰を下ろした。
二人の前には、湯呑みが置かれ湯気だけが漂う。
視線を落としたままの井上の様子に、吉田は肩の力を抜くかのように一息ついた。
「皆はもういない。井上といったね。君の名は……。話しは桂さんから聞いているよ」
井上は、何も反応しない。
吉田は、再び口を開いた。
「この子の名前はもう決めたのかい?」
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