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「……雨……。」
井上は、小さく呟いた。
外にでれば、すでに暗闇が覆い空からはぽつり……また、ぽつりと雨が降り始めていた。
顔を隠すように深く笠を被れば、足早に細い路地に入り帰路に向く。
細い、細い路地。
暗闇が覆う、細い路地。
長屋が軒を連ねるその道はまるで、自身まで丸のみしそうな暗闇が包み込むが、井上はどんどん先を進む。
だが、ふと足を止めた。
「……ニャー……。」
軒下で身体を丸め、か細く鳴く仔猫に井上の足は止まっていた。
『……寒いよぉ……。おっとぉ……。おっかぁ……。おっとぉ……。おっかぁ……。』
目許を細め仔猫を見つめる井上は、仔猫の前に屈みそっと手を差し伸べた。
「怖がるな。私もお前と一緒だ」
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