第1章

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 アルトリウスとはかつてナギと鎬を削ったプレイヤーである。  ライバルと言ってもいい存在だろう。  どちらが先にレベルカンストに到達するかも競い合っていた。  その勝負はナギが勝利したが、しかし知名度で言えばナギよりもアルトリウスの方が有名かもしれないと俺は思う。  ナギはかつてのメイン職業である武士に相応しく剣技で他者を圧倒したが、アルトリウスの方はメイン職業が回復役であるにもかかわらず、戦闘においてナギに迫っていたのだから。  アルトリウスが転生前に選んでいたメイン職業は『神官』。  回復役である。  回復にそのポテンシャルをつぎ込んでいく職業で、パーティープレイをメインとするのだが、しかしアルトリウスはソロで活動していた。  そしてあろうことか神官の装備である『杖』でメイン攻撃を仕掛けていたのだ。  神官にとって杖とはあくまでも魔法の為の装備であり、攻撃に用いるものではない。  しかしアルトリウスは『撲殺ヒーラー』としてLO内にその名を轟かせた。  殴る、殴る、殴る。  杖はとにかく強度の高いものを選び、自分を回復しながらとにかくモンスターを撲殺していった。  回復役でありながらパラメーター振り分けを筋力と敏捷力につぎ込んだ異端のプレイヤーだ。  しかしどスキル制というLOの特徴もあり、自分ひとりで回復と攻撃を担当できるバトルプレイヤーとして活躍の場を広げていったのだ。  ナギ曰く、 「あいつはもともと武道をやっていたんだろうな。体捌きに無駄がない。だから回復役でありながら戦闘職としてもずば抜けたセンスを見せてくれる。あいつとやり合うのは楽しいよ」  ということだった。  ナギのライバルでもある撲殺ヒーラーがわざわざ魔王軍に志願してきた理由は分からない。  ロリコンという可能性は低いだろう。  何故ならアルトリウスは女性プレイヤーだからだ。  LOでは性別を偽ってプレイすることは禁じられており、外見は自由に設定できても性別だけは本来のもので行わなければならない。  だから撲殺ヒーラー・アルトリウスは女性でありながらこの魔王軍に志願しようとしているということになる。 「……アルトリウスが百合属性だっていう話は聞かないよな?」 「聞いたことねえな」 「だったら目的はナギかな?」 「オレ?」
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