第1章

3/6
前へ
/26ページ
次へ
幸せを誓う言葉。 愛を囁き合う。 同じ家で同じ時間を過ごし、同じ景色を見て幸せを噛みしめる。 こんな普通の生活が幸せで…。 いつからだろう…陸の心の中に私の居場所がなくなったのは…。 いくら考えても分からない。 どれだけ語りかけても、もう…陸の声…聞こえないよ。 お願い…。 陸…声を聞かせて。 あんなに愛し合ったじゃない…。 私と死ぬまで一緒だと言ったじゃない…。 一人ぼっちにさせないって言ったじゃない…。 私は一人ぼっちだよ。陸への愛と恨みと…陸を失った悲しみから一人…時間が止まったままだよ…。 ー---- -------- 「陸君、車のスピードを出し過ぎてガードレールを曲がりきれ無くて……即死だったって…。」 「女の人と一緒だったって…お腹に赤ちゃんがいたみたいよ…。」 「見つかった時、二人手を握って彼女を守るように抱きしめていたって…。まだ結婚して一年…紗良ちゃん、なんて可哀想なの…。」 「相手の方は浮気相手だったってことよね?」 「何だか個人情報とかあるらしく、都合の悪い事は詳しく教えてもらえないとか…。」 「そんな…紗良ちゃんは、一生真実を知る権利が無いってことなの?可哀想だわ。」 親戚がコソコソ話す声が、私の心を鷲掴みにして抉って…。 私を悲劇のヒロインへとしたてあげ…。 私の未来なんてもう無いんだって言われてるようで。 もう五年もう経つのに、陸のそんな話しばかり…陸の幸せだった記憶を振り返る人はいなかった。 陸は、早くに母親を亡くし、父親と二人暮らしだった。 父親思いで、優しくて…。とても苦労して…。 でも、弱音なんか吐かなくて何時も周りを楽しませて幸せにする…そんな人だった。 仕事も、商社では異例の早さで課長となっていた。 彼は後輩や先輩、家族からも、信頼が厚かった…。 私と結婚して、間もなく彼は本社のある、東京へ転勤となった。 今でも彼は本当に私を幸せにしたいと思っていたと思いたい。 私も彼に母親のような寛大な愛を注いで行きたいと思っていた。 私も仕事をしていたから、ひと段落したら、退職して陸の元へいくつもりだった。 陸は真面目で、仕事を完璧にこなし…離れて暮らす私に気を使い…。 きっとどうしようもなく、心も体も疲れていたんだと思う。 新婚で浮かれていた私は、そんな陸の心に気がつかなかった…。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加