秘密のマンションの一室

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(ここが、今日からワシの住むマンション…) とあるマンションの一室の入り口。 少女、西島 翠(にしじま みどり)はそこに立っていた。 ゆっくりと人差し指を立てて、インターホンのボタンに近づける。 ピンポーン… ボタンを押したところで、インターホンからガチャッと音が聞こえた。 「はい、どなたでしょう?」 女性らしい声が聞こえ、翠は質問に答える。 「に、西島 翠じゃ」 「あ、はーい。ちょっと待ってて下さいね」 ガチャッ… その後、インターホンからの音は消えた。 次に音が聞こえたのは玄関のドア。 中から出てきた人は翠より少し身長の高い女性だった。 髪が肩口で一直線上に切り取られ、前髪も眉程度の長さで同じような切り方だ。 目と髪の色は芯まで通った深い黒。 肌は色白としていて、まるで日本人形の様だ。 女性というよりか、お姉さんといった雰囲気が目や口元でよく分かる。 「翠ちゃんね。私は玖月 氷苗(くづき ひなえ)です。話は聞いているわ。さ、中へどうぞ」 「お、お邪魔します…」 そう言われ、リビングへと通される翠。 氷苗は優しい笑みを見せているだけ。 「そこのソファーに座っててね」 翠がソファーに座ると、目の前のテーブルに湯のみが置かれる。 持って来たのはもちろん氷苗。 そのまま氷苗は翠の横に座り、上半身を翠と向き合わせる。 「さて、まずは貴方が本物の翠ちゃんか確かめさせてね」 また優しい笑みを見せ、翠に言う。 翠はコクンと頷いた。 「それじゃあ質問。 貴方の住んでいた所は何処?具体的じゃなくてもいいよ」 「……鳥取県の大山の中に住んでおった」 「その前は?」 「何処かの山の中。そこで集落作って、集落の中で暮らしとった」 「その集落の人々は何?」 「もちろん、忍者じゃよ」 率直に答える。 「そう。……最後に、いつも肌身離さず持っている石を見せてもらえる?」 そう言われ、翠は首筋から微かに見えているチェーンを取り出した。 首にかけているだろうそのチェーンはだんだん見える面積が多くなり、やがては吊るしてある物も、翠の胸元から姿を現す。 それは、球体型の石を半分に割った水晶だった。 「……間違いないかな。じゃあ、質問はこれで終わりね。菫ちゃーん」 水晶を見た後、氷苗は声を大きくして人を呼ぶ仕草をする。
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